END OF DREAM

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 慣れた気配が足音を伴って近付いてくる。こちらを覗き込み、まだ瞼は閉じたままなのを確認すると一旦身を引いて窓辺に向かった。カーテンレールを滑る軽快な音と共に顔に当たる光量が増す。どうやら今日も晴れのようだ。
「いつまで寝たふりを続けているのかしら?」
 柔らかく、それでいて悪戯っぽく笑う声が耳を打つ。開け放たれた窓からは薔薇の香りの乗った風が入り込み、ゆるやかに踊るレースのカーテンは朝陽を部屋に散らせていった。
 幼子に聞かせる御伽噺のワンシーンを切り取ったような朝。額に触れるだけの口付けをしてきたリリーナの背中に腕を回し、ヒイロはゆっくりと目を開けた。
「良い朝ね、ヒイロ」
 そうして視界に飛び込んできたのは、眩しいという言葉では足りない程の鮮やかさを持ったリリーナの笑顔。チリチリと焼かれているような錯覚は胸の疼きという形で影響を及ぼし、頭の回転を鈍らせている。
…………ああ」
 それでもどうにか口を動かして挨拶を返す。たったそれだけでリリーナの表情は彩度を増し、直視し続ける限界を感じたヒイロはさりげなく窓の外へと視線を逸らした。
「朝ごはんもできています」
「そうか」
「ちゃんと他の準備もしたわ。後は、あなたが起きるだけなのよ?」
 こちらが顔を背けているのを良いことに、リリーナは指で頬をつつき始めた。柔らかさの無い自分の頬など何も面白く無い筈なのだが、彼女にとっては違うようだ。弧を描いている唇からはくすくすと笑い声が零れている。
「起きてはいる。ただ……
「ただ?」
 リリーナは首を傾げて途切れた言葉の続きを促した。そして、このままでは喋りにくいだろうと頬からそっと手を離す。
「ただ…………夢かと、思っただけだ」
 ヒイロがそう呟くと同時、リリーナの手は吸い込まれるようにヒイロの手の中に収まった。まるで、本来はそこが在るべき場所だったかのように思えてしまうほどの自然さで。
 リリーナはヒイロのその行動に少しばかり驚いていたが、返ってきた言葉の意味を理解し、表情を綻ばせた。
「あなたの夢に、わたくしもいたのですね」
…………
 正確に言えばリリーナ『しか』いなかったのだが、それだけに口にするのは憚られた。言葉にはできない代わりに腕の力を強めると、リリーナはふふ、と息を漏らしながら肩口に擦り寄ってきた。
「でも、朝ごはんは現実の方が美味しいですよ?」
「だろうな」
「冷めない内に召し上がってください」
……了解した」
 ヒイロはリリーナを抱いたまま上体を起こす。二人の間に挟まっていた毛布を引き抜けば、空いた隙間を埋めるようにリリーナが身体を預けてきた。
 隔たり無く伝わる体温は、これが紛れも無く現実であるという証。存在を確かめるかのような丁寧さでリリーナの頬に口付けを落とすと、ヒイロは夢の続きをひっそりと噛み締めた。
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