その相違は認知こそしていたものの、楽しむなどという発想は持ち合わせていなかった。自分には必要の無いもの、縁の無いものだと思考から除外し、文字通りの他人事として今までは受け取ってきた。
過去形。そう、今までは。
「もう冬が明けるのね」
リリーナは窓の外を見てそう呟く。半月前までは毎日のように雪のヴェールが地面を覆い隠していたのだが、ここ数日は晴れの日が続いていた。
新たに積もることも無く、雪はただ静かにその輪郭を曖昧にして消えていくのみ。そうして露わになった地面には早咲きの野花が葉を伸ばし、着々と蕾を付ける準備を進めている。次の季節もそれほど遠いものでは無いのだろう。
「何が欲しい」
「…………?」
そこまで考えて、ヒイロはふとリリーナに視線を向ける。毛先をふわりと散らばせて傾げられた首には真紅の花が妖しく咲き、白い肌においてその色彩は鮮烈だった。
「……そう、そうね。去年はとても大切なものを貴方から戴きました。だからこそ、他に何かと言われても困ってしまうわ」
昨晩の名残りに思考までもが吸い寄せられている間に、リリーナはヒイロの問いかけが己の誕生日に関することだと理解したのだろう。一語一句を噛み締めながら丁寧に発せられた音は優しく空気を震わせ、まるでそれ自体がひと足早い春風のように思えた。
「答えを急いているつもりは無い」
「ありがとう。でも、そうね…………」
リリーナは目を閉じて考え込む。いつかのようにバースデーカードやテディベアを贈ってもらうのも良いが、ヒイロが生きているだけで、こうして言葉を交わせるだけで十分なのだ。どれだけ時間をかけて考えたとしても、結局はそこに行き着くのだろう。
「でしたら、ヒイロにお願いするわ」
「……何をだ」
「わたくしは何を戴いても嬉しいわ。ですから、ヒイロは贈って嬉しいもの、贈りたいものを自由に選んでください」
そう言葉にしながら、我ながら良い案だとリリーナは心の中で深く頷く。思えば、かつてドーリアン邸で開催していたバースデーパーティーでもそうだった。祝ってくれる人への感謝を込めて、最大限のもてなしをする。主役さえ満足できればそれで良いという話では無かった。
早い話、リリーナはヒイロにも喜んで欲しかったのだ。
「……了解した」
「ふふっ、楽しみにしています」
首を縦に振ったヒイロを見て、リリーナは笑顔の蕾を綻ばせた。零れる吐息は甘やかな薔薇と紅茶の香りを運び、春の陽射しの下にいるかのような穏やかさが辺りを包み込む。
季節の変わり目はもう間近だ。

